投資比較

AI判断とルールベースを並走させたら差は19円。ただし「同じ条件」で比べられていなかった

著者: サム(会社員エンジニア・FX Bot開発・投資実践者)

免責事項: 本記事は情報提供を目的としており、特定の投資商品を推奨するものではありません。投資にはリスクが伴います。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。

同じ資金で、AIとルールを並走させた

自動売買の記事を読んでいると、「AIが相場を読む」という説明によく出会います。では実際にAIに判断させると、決められたルールで機械的に売買するより成績は良くなるのか。

気になったので、両方を同時に動かしました。

揃えたつもりの条件は、同じ通貨ペア(USD/JPY)、同じブローカー、同じ初期資金2万円ずつ。片方は生成AIに相場データを渡して売買方向を決めさせる「AI判断チーム」、もう片方はEMA・MACD・RSIといった指標の条件を満たしたときだけ発注する「ルールベースチーム」です。

先に断っておくと、この並走は対照実験として成立していませんでした。その話は後述します。

2026年5月18日から8月7日までに、両チーム合わせて45回の決済が発生しました。結果はこうです。

チーム 取引数 勝ち 勝率 確定損益 1取引あたり平均 プロフィットファクター
AI判断 29 6 20.7% -2,048円 -70.6円 0.382
ルールベース 16 6 37.5% -2,029円 -126.8円 0.444

確定損益の差は 19円 でした。

どちらも負けている、という点はあらかじめ書いておきます。合計で-4,077円です。運用資金が4万円なので、81日で約10%を失った計算になります。

この19円を「引き分け」と読んではいけない

差が19円と聞くと「AIとルールは互角だった」と読みたくなります。実際、最初はそう受け取りました。

けれど決済履歴を戦略ごとに並べたところ、前提が崩れました。

チーム 戦略 取引数 最初の建玉 最後の決済
ルールベース トレンドフォロー 12 2026-05-18 2026-06-16
ルールベース セッションブレイクアウト 4 2026-07-30 2026-08-07
AI判断 AI売買判断 29 2026-05-20 2026-08-07

ルールベース側は、6月16日から7月29日までの約6週間、1件も取引していません。この間に戦略そのものが差し替わっており、AI判断側だけが売買を続けていました。

同じ期間・同じ相場に同じだけ晒されていないのだから、19円差は「優劣がつかなかった」証拠にはなりません。比較可能な形で回せていなかったというのが正確なところです。

対照実験を組んだつもりで組めていなかった。これが今回いちばん高くついた学びでした。

その前提のうえで、取引の中身には差が出ています。

観点 AI判断 ルールベース
取引数 29回 16回
稼働のしかた 81日間ほぼ連続 前半12回・後半4回、間に6週間の空白
勝率 20.7% 37.5%
1取引あたり平均損益 -70.6円 -126.8円
平均損失(負け取引のみ) -150.8円(22件) -364.6円(10件)

ルールベースの平均損失はAI判断の約2.4倍でした。ただしこれも、稼働期間が違う以上ロジックの差とは言い切れません。

では、両者に共通して効いていたものは何か。そちらは期間の偏りに関係なく確認できます。

両チームが同じ形で負けていた

売買方向ごとに分解すると、そろって同じところで沈んでいました。

チーム 方向 取引数 勝ち 確定損益
AI判断 買い 15 5 -544円
AI判断 売り 14 1 -1,504円
ルールベース 買い 10 5 -166円
ルールベース 売り 6 1 -1,863円

売りポジションが、両チームとも14戦1勝・6戦1勝です。合計すると売りは20取引で2勝、確定損益-3,367円。全体の損失-4,077円のうち 82.6% が売りから出ていました。

買いのほうは25取引で10勝、-710円。褒められた数字ではありませんが、傷は浅い。

判断ロジックが違うAIとルールが、そろって同じ方向で外し続けたということです。稼働期間がずれていてもこの傾向は両方に出ているので、「戦略の質」より先に「相場そのもの」を疑うべき結果でした。

実際、自前で記録していたUSD/JPYのティックデータ(29万5,429件・2026年5月24日〜8月8日)で相場の推移を見ると、こうなっています。

最安値 最高値 月平均
2026年5月(24日以降) 158.764 159.648 159.233
2026年6月 159.374 162.670 160.776
2026年7月 157.463 163.976 162.395
2026年8月 155.293 158.566 157.585

5月から7月にかけて、ドル円は159円台から164円近くまで上昇しています。売りを持てば持つほど不利な局面が2ヶ月続いていました。両チームはそこで売り続けていたわけです。

「AIか、ルールか」より先に決めるべきこと

この結果から受け取ったのは、次の順序です。

1. 比較したいなら、稼働期間を揃える仕組みを先に作る

いちばんの反省がこれです。両チームを同時に走らせれば比較になると思っていましたが、片方の戦略を入れ替えた時点で条件は壊れていました。しかも壊れたことに、決済履歴を戦略別に並べるまで気づいていません。比較実験を名乗るなら、稼働状況の差を検知する仕組みが要ります。

2. 方向を外すと、判断ロジックの差は誤差になる

19円の差は、売りで失った3,367円に比べれば無視できる大きさです。ロジックの選定に時間をかけるより、「今この方向に賭けてよい相場か」を判定する層のほうが先に必要でした。

3. 勝率とプロフィットファクターは別々に見る

ルールベースは勝率37.5%とAI判断より高いのに、負け取引あたりの損失は約2.4倍でした。勝率が高いことは、収支が良いことを意味しません。

数値の出どころと更新について

本記事の数値は、運用中のデータベースから2026年8月22日時点で直接集計したものです。取引の1件ずつは記録されており、集計値ではなく元データから再計算しています。

累計損益・勝率・プロフィットファクターの最新値は、AutoTrade 実績ページで自動更新しています。本記事の数値は執筆時点のスナップショットなので、現在値と差があればそちらが新しいものです。

なお、この運用は2026年8月8日以降、稼働戦略をゼロにして停止しています。複数の通貨ペアで検証したところ、採用していた戦略の優位性が確認できなかったためです。その判断に至った内訳は負けた45取引の分解にまとめました。

まとめ

同じ資金・同じ通貨ペアでAI判断とルールベースを並走させ、81日で確定損益の差は19円でした。

  • AI判断: 29取引・勝率20.7%・-2,048円・PF 0.382
  • ルールベース: 16取引・勝率37.5%・-2,029円・PF 0.444
  • ただしルール側は途中6週間取引ゼロで、対照実験としては成立していない
  • 損失の82.6%は、両チームに共通して「売り」から発生

19円差は優劣の証拠ではなく、比較可能な形で回せていなかったことの記録です。そのうえで両者に共通して効いていたのは、判断ロジックではなく賭けた方向でした。自動売買を検討するとき、「AIかルールか」は最初に悩む問いではなさそうです。

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